My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「蝶々?」
「ええ、見たことのない蝶が…なんだか綺麗」
ひらひらと暗い森の中で舞う一匹の蝶。
暗闇よりも更に深い漆黒の羽根を広げて宙を飛ぶ様は、なんだか少し現実離れしているようにも見えてミランダは笑みを添えた。
門を潜って一歩踏み出す。
蝶に誘われるように歩み進むミランダの背中に、仕方ないとマリも苦笑混じりに後を追った。
夕飯は遅くなるが、少しばかり彼女に付き合うのもいいだろう。
──カサッ
(ん?)
ゆっくりとミランダの後を追って東扉の門を潜れば、聴覚の良いマリの耳に届いた微かな草の擦れ合う音。
盲目の目を向けた先では、暗い茂みが微かに揺れていた。
(小動物か?)
黒の教団を覆っているこの大きな森には、様々な動物が住み着いている。
リスか兎か狐か、そんなことを考えながら何気なくマリは足を向けた。
「…あら? 何処に行ったのかしら」
少し珍しい模様をしていたようにも見えた蝶の羽根。
暗い森の中ではよく見えないと、後を追ったミランダの目はいつの間にかそれを見失っていた。
まるで夜の闇に溶け込むように、ふっと消えてしまった蝶。
「ミランダ」
「なぁに? マリさん。そっちに蝶々が──」
「いや」
振り返ったミランダに、足元の茂みを見ていたマリが身を屈める。
「私は盲目だからよくわからないんだが…変なものを見つけた」
「変なもの?」
大きな手が何かを茂みから拾い上げる。
何かと歩み寄り手元を覗き込んだミランダは、まぁとココア色の目を瞬いた。
「それって縫いぐるみ?」
マリの手に握られていたもの。
それは子犬程の大きさの、女の子の縫いぐるみだった。