My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
薄暗い地下通路の中でマリが聴いた、雪の心音。
いつもより不安定で心許無いものだったけれど、確かにはっきりと鼓動を打ち鳴らしていたところがあった。
それは神田への想い。
以前マリが耳にしたものと変わらない、寧ろ前以上にはっきりと響いてきた"音"。
彼の為に、と。
そこには打算的な思いも企みも何もない。
ただただ彼の為に、と他人を真に想う気持ちだけで溢れていた。
"敵"として教団に身を潜めていたならば、そこまでの想いを抱いていただろうか。
果たして抱いていたとしても、"敵"であったならばあの場でそこまで真に神田だけを想い行動できただろうか。
雪の真意はわからない。
いくら鼓動で感情を読み取れようとも、その奥底の心まではマリでも知り得ることはできない。
それでも確信はあった。
以前、神田との仲を言い当てれば、神田を幸せにしたいと。運命共同体になろうと笑顔で声をかけてくれた雪。
あの時見た笑顔は、確かに偽りのものではなかったのだ。
「雪のことは、コムイ室長がきちんと見定めてくれるはずだ。私達はそれを待っていよう」
「…ええ…そうね」
優しく肩に乗る大きなマリの手。
そこに寄り添うように手を添えて、ミランダは力なくだが微かに笑みを浮かべてみせた。
不安はあるが、マリが傍にいれば。その心と同じに温かい彼の体温を感じていれば、きっと乗り越えられると思えたから。
「よし。なら夕飯でも食べに行こうか」
「ええ」
ぽんっと軽く肩を叩いてマリの手が離れる。
いつもと変わらない表情(かお)で笑いかけてくれる彼に、ミランダもはっきりと頷いた。
「──?」
しかしマリに続こうとした彼女の動きが、ぴたりと止まる。
「どうした? ミランダ」
「…今…そこで何かが動いたような…」
一瞬だったが、ココア色の瞳の隅に映った黒い小さな影。
真っ暗な森の入口。
東扉の前で佇んだまま、ミランダは不思議そうに顔を其処へと向けた。
ひら、と。
暗い森の中で、何故かはっきりと見えた小さな影。
「……蝶々?」
それは一匹の漆黒の蝶だった。