My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「とにかく聞けって千年公ッ今はそんな茶番に付き合ってる暇は──」
「わかってマス♡」
ズビズビと鼻を噛みながら、わなわなと震える千年伯爵の体。
てっきり歓喜で震えているのかと思っていたが、感じる気配に違いを感じたティキは口を閉じた。
「我輩だって心苦しいのデス♡ 大事な大事な家族を何故あんな薄汚い豚共に、好きにされなければならないノカ…♡」
ぶちぶちと、千年伯爵の両手に握られていたハンカチが音を立てて引き千切られる。
にんまりと、引き裂いたような歯茎剥き出しの口はそのままに。
ぞわり、と。
とんがり靴の先から広がるように、氷のように冷たい殺気が絨毯の上を這っていく。
「憎らシイ…嗚呼憎らシイ♡」
穏やかだった千年伯爵の声が、弾む声はそのままに低さを増す。
ぞわぞわと鳥肌を立たせ、吸い込む空気でさえ冷気のように感じる程の殺気を前に、ティキ達は息を呑んだ。
いつだってそうだ。
一番におどけて一番にふざけて一番に家族から小馬鹿にされることが多い千年伯爵だが、一番に怒らせると怖いのもまた彼なのだ。
「安心なサイ♡ 必ずやラースラを我々の手に取り戻してみせまショウ♡」
眼鏡の奥の金色の瞳が、ぎょろぎょろと回る。
「きゃつらの下カラ♡」
その確固たるノアの筆頭の言葉に、批判する者など誰一人いなかった。
「……」
ほっと小さな吐息をつく。
その少女の顔には安心と僅かな不安の表情。
それは瞬く程のもので、一秒先にはいつもの笑みを称えていた。