My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「あんだよ千年公! ラースラが敵に甚振(いたぶ)られんのを黙って見てろってのかよッ?」
「痛め付けられることはあるでしょうが、殺されることはないでショウ♡ 今は、マダ♡」
「ヒ。なんでわかるの?」
「人間とはそういう生き物だからデスヨ♡」
ぽよんっと大きな腹を揺らして談話室に踏み込む千年伯爵に、真っ先に噛み付いたのはデビットだった。
対して千年伯爵はくるくると手に持っていたステッキを回しながら、顎の外れたにんまり口のまま、器用に喋る道化師のような声は穏やかなもの。
「捕食したものでさえも、取り込んで我が力にとしようとスル♡ なんとも傲慢で狡猾(こうかつ)な考えを持っていマス♡ あの14番目でさえも懐の中で泳がせ様子を見ているのですから、ラースラちゃんがすぐに殺されることはないでショウ♡」
「…殺されることは、だろ」
千年伯爵の言うことは確かに納得できるもの。
それでもティキの顔には不満の色が表れていた。
「でもそれって生きてるって言えんの? 鎖に繋がれて、檻に閉じ込められて、痛みと恐怖を与えられて。それで生きてるって言える?」
不服な顔で半ば冷たくも見えるティキの眼。
それは真っ直ぐ千年伯爵にだけ向けられていた。
「ティキぽん…♡」
基本、同胞である家族にも無頓着なことが多かったティキ。
そんな彼の珍しくもある姿に、千年伯爵は徐にハンカチを取り出すと、己の顔に寄せて──
「ズビビビビーッ!」
「………何やってんの千年公」
盛大に鼻水を拭いた。
「だってあのティキぽんガ…! 我輩にだって冷たいティキぽんが家族を心配シテ…! 成長しましたネェ…!」
「俺別に千年公に冷たくしてた覚えは…って、ちょ、子供みたいに泣くのやめてくんない。恥ずいんだけど」
「だって我輩嬉しクテ…! 今日の夕飯は特製ハンバーグにしまショウ! 我輩、腕に縒(よ)りをかけて作りますカラ!」
「別に晩飯メニューなんて今は…ってまたハンバーグかよ。本当好きだなオイ」
おいおいと滝のように涙を零しながら、ハンカチを両手で握って歓喜に震える千年伯爵。
その姿に半ば呆れ半ば苛立ち混じりに、ティキは溜息をついた。