My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「いーい? 今雪がいるのは、蛇の口の中なの。少しでも蛇を刺激したら、簡単に丸呑みにされちゃう。そんなこともわからないのかなぁ」
「のの…チクチクと突き刺さるのう…」
口調は語尾の緩い幼女らしいものだが、責める言葉は子供らしかぬもの。
淡々と責められながら、ワイズリーは言葉の棘に肩を竦めた。
「わかっておったよ、ロード。しかしの…ワタシだって感情が先行する時もある。主らが感じた雪のメモリー。…それをワタシは"視た"のだ」
僅かに目尻の眉を下げながら、珍しくも神妙な顔つきでワイズリーは力なく言葉を零した。
その目は分厚い高級絨毯へと落とされて。
「焼かれ爛れる肌を、その焼けた手で助けを請うてイノセンスを掻き毟る様を、閉ざされた空間で逃げ場のない絶望を。雪自身の肌を通じて、雪自身の眼を通じて、ワタシははっきりと視た。その雪の五感を真に感じて、黙って指を咥えたままでいるなど、できようか」
最初はワイズリーも、ティキを止めるつもりでいた。
いくら"快楽"のメモリーが覚醒し強さを増したティキであっても、元帥やエクソシスト達複数を相手にしては自殺行為にしかならない。
しかし止めようと覗いたティキの心には、一切迷いがなかった。
一人で救い出すことの困難さは本人も理解していた。
それでも尚止まろうとしないその心は、真っ直ぐ雪だけに向けられていたから。
そんなティキの力になろうと思ったのだ。
一人では無理なことも、力を合わせればどうにかなるかもしれない。
その僅かな希望にかけてでも、雪を救い出したいとワイズリー自身も思えたからだ。