My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「ふーん…」
「デビット? どうしたの?」
「…べっつに。道理で胸クソ悪い夢だったってワケか」
眩い光と忌々しい十字架の紋様。
それらに取り囲まれて、身を焼かれる激しい痛み。
どこにも逃げ場のない、大きな恐怖。
頭の中に強制的に送り込まれていた悲痛な訴えは、ラースラのものだったのか。
「……」
「デビット~?」
「っせェな。なんでもねェよ」
読んでいた雑誌を放って考え込む。
その顔はむすりと僅かに嫌悪感を示していた。
半身であるデビットのらしくない反応にジャスデロが覗き込めば、見んなと顔を掌で押し返された。
「確かに感じたのは"怒"のノアメモリーだった。理屈なんてなくても、俺自身のメモリーがそう感じてるからわかる。…けど最後に聞いた、"あの"悲鳴は……雪自身のもんだ」
『たすけて』
消え入りそうな声だった。
生贄に差し出された羊が振り絞った、小さな小さな悲鳴。
今もまだ耳にこびり付いているその声に、ティキの顔が歪む。
「いくらノアとして覚醒してねぇからって…あれじゃ拷問だ」
「…問題はそれだけではない」
「? なんだよ。他に何かあんの」
「雪は憤怒のノアだ。怒りは痛みを伴うことで蓄積し力を増していく。前ラースラであったスキン・ボリックもそうじゃったじゃろ」
ふむ、と顎に手を当て考えるように呟くワイズリーに、怪訝にティキが目を向ける。
ジャスデビもまた口を挟むことなく、静かに二人の会話に耳を傾けていた。
「ノアとして覚醒しておらずとも、あの"14番目"のメモリーに触れたのだ。雪の中でのノアの輪郭は確かなものへと形を成しておる。そこへ痛みを与えられれば、"怒"のメモリーも反応を示すはず」
「じゃあ…今回の痛手で──」
「いや。そこが問題なのだ」
となると、激しい痛みを伴ったあのイノセンスの業火で、雪の能力は発揮されたのか。
ティキがそれを口にする前に、ワイズリーははっきりと否定を示した。