My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「隘路(あいろ)となっておるが故に、痛みを力へと変換できずにいる。ノアとしての力を発揮できておらん。じゃからティキも感じたように、雪は悲鳴を上げておったのだ」
「…隘路?」
「障害ということだ」
顎に当てていた手を離し、ぴ、と人差し指を立てる。
「イノセンス適性実験。それが雪の障害となっておる」
さらりと告げたワイズリーの言葉が何を意味しているのか。すぐに悟ったティキは、黙ったまま口を結んだ。
聞かなくてもわかる。
以前、その時の雪の記憶をワイズリーに見せてもらったことがある。
雪が"大丈夫"という言葉を嫌う本となった出来事を。
「なんだよ、イノセンス適性実験って」
「雪はエクソシストじゃないのに、何が関係してんの?」
しかしジャスデビはそのことを知らない。
純粋に不思議そうに尋ねてくる二人に、静かに目を向けたワイズリーはやがてその口を開いた。
「雪は昔に教団で、そのイノセンス適合実験を経験しておるのだ」
「へー……はっ?」
「えっ! ホントにッ!?」
「うむ。雪の親はエクソシストであったからのう。血縁者である雪にもその可能性があるのではないかと、思われたのだ」
「…マジか…あいつの親ってエクソシストだったのかよ」
「ヒぇ…っデロ吃驚…」
ぽかんと、驚き顔で固まるジャスデビ。
予想していた二人の反応に、特に気を止めることもなくワイズリーは説明を続けた。
「その時何度も与えられたイノセンスからの苦痛。恐怖。そういうものが雪の心に歯止めをかけている」
「ヒぇえ…っイノセンスに痛みを与えられるの?…それすっごく痛そう…」
「幼い雪には大きな痛みだっただろうのう。精神的外傷となっておるから、"怒り"よりも"恐怖"が勝る。故に憤怒の力に制御がかかっておるのだ」
「……トラウマってことね」
無造作に癖の強い髪を掻いて、ティキは深い溜息と共に呟いた。
人間の心は繊細で脆い。
その癖、思い込みや刷り込みで簡単に強くもなれる。
逆も然り。
思い込みが強ければ、それが枷となってしまうこともある。
見えない鎖で縛り付けられているかのように。