My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「確固たる理由なんてねぇよ。つか、理由なんて必要?」
「………ううん」
「だろ」
理由なんてなくとも、自分自身の心なのだから疑う必要なんてない。
優しく問えば、至近距離で絡まる視線。
暗い独房の中なのに、暗闇の道標のように煌めいて見えるティキの金色の瞳。
魅入るように目が逸らせなくなる。
沈黙が自然と生まれた。
(あ…これ、なんか…)
なんだかそわそわと胸が騒ぐ、そんな沈黙。
絡まる視線に逃げられない。
(……なんか…駄目な気が、する)
目線を外そうとするのに外せなくて。離れなければ、と思うのに体は動かない。
暗闇で煌めく金色の瞳に魅入られて、気付けば距離は更に縮まっていた。
(──ぁ)
ゆっくりと寄せられるティキの顔に、吐息が唇にかかる。
先程のからかいのようなキスではない、想い合う仲で生まれるようなキス。
雰囲気に呑まれて動けずにいる雪に、褐色の薄い唇が微かに触れかけた。
「待っ──」
は、と意識が切り替わったのはその時だった。
ガチャン、
重い錠が開く音。
はっと雪が顔を上げると、其処にはもう誰もいない。
ひとりだけの狭い独房の中。
(…あれ?)
何かを止めようと言葉を投げかけた気がしたけれど、はっきりしない。
そもそも一人ベッドの上で、布団に包まり縮こまっていただけだ。
変わらずその体制でいるのに、不思議と変な空気が雪を包んだ。
「…?」
いつの間にか意識を飛ばして、寝てしまっていたのだろうか。
不思議そうに雪が辺りを見渡した時、ギィ、と重い扉が開かれた。
視界に扉から入り込む光を捉えて、慌てて布団を剥ぐとベッドから飛び降りる。
次に独房の扉が開く時は、神田を連れて来ると約束したコムイがやって来る時。
待ち人の訪問であったからだ。