My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「忘れるって?」
「……ティキのこと」
きゅ、とティキのシャツを握る雪の手に微かに力が入る。
「ワイズリーのことも。話したこと、ちゃんと憶えてるのに…大事なこと、色々言ってくれてるのに。…なんで起きると憶えてないんだろう」
「……」
「…憶えておきたいのに…」
単なる夢と片付けられない程に、心を動かす言葉をもらった。
優しい笑顔と、温かい肌と、寄り添ってくれた心。
例えこれが現実でなくとも憶えていたいのに。
目覚めるとそれはすっかり雪の頭から抜け落ちていて、思い出そうとしても思い出せない。
目覚めると忘れてしまう。
夢とはそういうものでもあるが、ここまで憶えておきたいと思った夢はなかった。
目の前でしかと掴むティキのシャツの感触でさえ、リアルに感じられるのに。
「…それって本心?」
「じゃなきゃ言わないよ」
「……そっか」
シャツを掴む雪の手に、ティキの手が重なる。
優しく握り込まれて、顔を上げた雪の目に映ったのは綻ぶ顔。
(あ…初めて、見たかも)
優しい笑みでも綺麗な笑みでもない、嬉しそうに笑うその顔に顔に熱が集まる感覚。
なんだか直視できなくて、雪はつい視線を逸らした。
「大丈夫。雪が忘れたって、俺が憶えてるから」
握った褐色の大きな手が、その手を誘うように引く。
空いた手が背中に回されると、極自然に引き寄せられた。
近付く距離に、ドキリと胸が鳴る。
恐る恐る再び目を向ければ、そこにはやはり見慣れない綻んだ笑顔があって、雪の頬に微かに赤みが差した。
「…ティキ………ぁ、ありが」
「なんて言わねーけど」
「オイ」
がしかしそれは一瞬の産物だった。