My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
鎖の音が煩わしいと嫌がる自分の為に、ティキがしてくれた行為。
だということは理解できたが、聊かやり方に問題がある。
目の前にある広い胸板を押し返しながら、雪は溜息をついた。
(そもそもリアル過ぎでしょ…夢なのに)
今度はすんなりと身を退いてくれたティキに、ほっとしつつも未だ胸はドキドキと音を立てて鳴り止まない。
肌に触れる手も舌の感触も妙にリアルで、だからこそ焦りと緊張で上手く体は動かせなかった。
こんな夢は心臓に悪い。
早く覚めてくれないかと思うのに。
「……」
覚めて欲しくないとも思ってしまった。
目覚めれば待っているのは、誰もいない冷たい石造りの狭い牢獄。
誰もいない、ただ自分ひとりだけ。
再びそこに戻りたくないと、思ってしまった。
ティキと出会うのは、いつも暗闇の中だった。
それでも彼の傍にいれば、いつも別れはあっという間にやってきて時間を感じなかった。
この冷たい牢獄の中でも同じ。
彼が傍にいれば不安は和らぐ。
それでも結局これは夢なのだから、いつか別れはやってくる。
そうして目の前のリアルな存在は消え去って、再び意識が現実に浮上した時には──
「どしたの、急に黙り込んで。そんなに嫌だった?」
「……」
「雪?」
黙り込んだ雪の手が、ぴくりと揺れる。
微かな鎖の金属音を立てて、伸びた手は目の前のティキの白いシャツを掴んだ。
「…なんで…忘れるんだろ…」
ぽつりと雪の口から漏れた言葉は、無意識の問いかけだった。