第3章 制服デート
「おお~!いいないいな!さすが俺!バッチリ、決まりすぎだろコレ!」
三月も残すところあと数日となったその日、西谷家の一室からは相変わらずの大声が周囲に駄々漏れていた。
やや興奮気味に大きな独り言をまき散らしながら、夕は鏡に映る自分の姿をよく見ようと、横を向いたり、後ろを向いたりと、せわしなく動き回っている。
いったい何の騒ぎなのかというと、つい先ほど、夕が到着を心待ちにしていた中学校の制服が届いたのだ。
できるだけ長く着せようという魂胆であろうか、まだ袖や裾は余り気味だったし、切望していた学ランではないけれど、制服を着た自分はなんだか急に大人びて、立派な人間になったような気がした。
我ながらよく似合っている。心なしか、身長までぐっと伸びた気さえするではないか。
「おしっ!中学生の俺、完璧!」
仕上げに鏡に向かってニカッと笑うと、自分の部屋を飛び出し階段を駆け下りる。
「夕!階段走らないで!ちょ、あんた、そんな恰好でどこ行くの!?」
「みなみんとこ!制服見せてくる!」
台詞の後半は、バタンと荒々しく閉まった扉の向こうへ消え、開いていた窓から聞こえてきた。
「あの子、何歳までみなみちゃんに甘える気なのかしら…」
母の呆れた呟きは特に誰にも届かず、隣家のインターホンの音にむなしくかき消された。
もどかしく、一段飛ばしで今度は階段をかけ上がる。みなみの部屋は、階段を上がってすぐの部屋だ。
「みなみ!制服届いた!!」
ばんっ!とノックもせずドアを開ける。
みなみは机に向かって何か書いているようだったが、階段を上る騒々しい音でおおかたの予想がついていたのだろう、その手は止まっており、ちょうどこちらを振り返るところだった。
「もう、夕、ノックぐらいしてっていつも…」
うんざりした口調で振り向いたみなみが言葉を止め、その表情に感嘆が浮かぶ。
途端、文句を言おうとしていたことなど忘れ去り、パッと立ち上がるとドアの前で仁王立ちしている夕に歩み寄る。
「わあ!夕、かっこいいね!めっちゃ似合ってるよ」
「だろ?だろ?まあ、俺は学ランが良かったんだけどさ、ブレザーもなかなかカッコイイよな!」
満足げに襟元を寄せ、全身を見せようとくるくる回る。