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夕焼けの色、歓びの種。【西谷夕】

第16章 エピローグ


 「田中さん田中さんっ!おれと影山も会ったことありますよね、ノヤっさんのお嫁さん!」
 追い付いてきた日向が田中に聞く。
 「お?おう、そういやそうだったな。日向お前ねーちゃんと間違えてたよな」
 「ぐっ、そ、そうだっけ…怒ってるかな…」
 「いや忘れてんだろフツーに」
 冷たく言い捨てる影山の後ろから山口がひょこっと顔を出す。
 「へー、日向たちも会ったことあるんだ。会うの楽しみだな。ね、ツッキー!」
 善良そのもののそばかす顔の隣には、相変わらずのポーカーフェイスが並んでいて、
 「まあ、西谷さんは、式場中で一番高い上げ底の靴履かされてるだろうね」
 などと、いない相手にまで嫌味を言っている。
 口々に好きなことを言い合いながら、久しぶりに集まった烏野高校排球部の仲間たちは、もう一人の仲間の待つチャペルへと歩みを進めるのだった。

 ギリギリに到着したためか、チャペルへ入るともう白いタキシードに身を包んだ西谷が、最前列の椅子に座っていた。
日向たちの姿を見つけると、ニカッと笑って手を振って見せる。
 そのあとはじっと前方を見据え、膝の上でぐっと手を握り締めている。
 緊張しているのかとも思ったが、その表情を見れば期待に胸を膨らませているのだと分かった。試合で、難しいサーブやスパイクを待ち受けていたときのワクワク顔と同じ顔をしている。

 やがてチャペルの扉が開き、西谷が選んだ女性が入ってくる。
 とてもきれいだ、と日向は思った。白いドレスに包まれて、幸福そのものが歩いてくるようだった。
 ちなみに、隣に座る田中は先ほど西谷の姿を見た瞬間から早くも号泣している。
 西谷の手が彼女の手をとり、二人の目と目が合ったのが、遠くからでもよく分かった。その目が、お互いを大切な宝物のように見つめていることも。
 このひとたちは、慈しみあってお互いを選んだのだと、この場にいる誰もが静かに感じ取っていた。
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