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夕焼けの色、歓びの種。【西谷夕】

第2章 おとなりの男の子


 「おばさん、ごめんね。夕、ガードレールに上ろうとして、落ちちゃったの。ケガはしてないみたいなんだけど、すごく泣いてたから」
 二人が家へ着いたとき、母親たちはまだ立ち話を続けているところだった。
 「ええぇ!もう、あんたは!危ないからやたらとどこにでも上っちゃダメっていつも言ってるでしょ!
 ごめんねみなみちゃん、いつもいつも迷惑かけて……って、みなみちゃんケガしてるじゃない!」
 「あ、ほんとだ」
 夕を連れて帰るのに夢中で気づかなかったが、そう言われてみれば腕を少し擦りむいたようだった。気付いたとたんに何だか痛くなってくるから不思議だ。
 「なあに?見せてごらん」
 ああ、大丈夫よ、ただのすり傷じゃない、とみなみの腕をとる母の声にかぶさるように、夕のおばさんのがみがみ声が続く。
 「もう!夕、ちゃんと謝りなさい!女の子にケガさせて、お嫁に行けなくなっちゃったらどうするの!」
 お嫁に行けなくなっちゃったらどうするの、はおばさんの口癖だ。
 夕といると、本人はもちろん、みなみの方にも生傷が絶えないから、おばさんはいつもそう言っては夕を叱り、みなみと母に平謝りするのだ。
 そして、夕は、おばさんのその言葉を聞くと、いつもキョトンとした顔をして、決まってこう言うのだった。

 「みなみはおれとケッコンするから、およめにいけなくてもだいじょうぶだそ!」

 だいすきな可愛い夕。
 夕がこの台詞を言うようになったのは、いつごろからだったろう。

 こんなふうに言われると、とてもくすぐったくて誇らしい気持ちになる。
 クラスにはおしゃれでかっこいい男子も、体育が得意で女の子にモテる男子もいたけれど、みなみは、もうずっと昔から、夕だけが大切だった。
 幼すぎて、もちろん恋も愛もまだ知らないけれど、それでも夕だけが、ずっと、みなみにとって一番大切な男の子だったのだ。
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