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夕焼けの色、歓びの種。【西谷夕】

第10章 エースとの衝突


 「………そっか」
 あさひさん、というエーススパイカーの話は、以前からよく聞いていた。
 夕がその人をどのくらい尊敬し、信頼し、彼と共に在りたいと思っているのかは、傍で話を聞いているだけでも伝わってきた。
 だからこそ、その彼と諍いを起こしたことが、彼の元へボールを繋げきれなかったことが、夕の中で大きな後悔となって、最終的に自分自身へ牙をむいているのだろうと彼女は思った。
 「俺、全然ボール拾えなかった。それなのに、旭さんは自分ばっか責めて、決まんないスパイク打ったって楽しくねーとか……」
 ぎゅ、と夕が唇を噛む。
 県民体での対伊達工業戦はつい先日行われ、その試合ならばみなみも見に行った。確かに、ひどく一方的な試合だった。
 観戦している分には、夕はいつも通り走り回ってきわどいボールまでしっかり拾っていたように見えたし、あの長髪のエーススパイカーも、何度も何度もトスを呼び、諦めず打ちこんでいるように思えた。
 それでも文字通り何もさせてもらえない、という状態で試合が終わってしまい、見ていただけでも後味の悪い試合だったのだから、当事者である彼らの中に深い影を落としていたとしても、不思議ではない。
 「夕、私はバレーのことでは何もわかったようなことは言えないから、ただ、思うことを言うね」
 いつの間にか隣に並んで腰かけている夕の方を見ず、みなみは静かに話した。
 「前に言ったよね、私はあなたの一番のファンだって。夕がボールを追う姿には、人を惹きつける大きな力があるんだよ」
 甘えるように、夕の頭がこつんとみなみの方へ寄りかかる。
 「だから、夕がボールを追ってさえいれば、あさひさん、もきっと戻って来るよ。あなたはあなたのやるべきことを、今はするしかないんじゃないかな。」
 ね、夕?と、みなみは夕の方へ向き直り、寄りかかってきた夕の頭を、甘やかすように胸に抱え込んで抱きしめた。
 夕は強くて、いつも元気だけれど、優しさゆえの脆さも、弱さも、本当は人並み以上に持ち合わせている。それに、泣き虫なところだって、あるのだ。
 私にその顔を見せてくれている間は、いくらだって受け止めてあげよう、とみなみは思った。じわ、と彼女の胸が熱く湿って、腕の中の夕の肩が小さく震えた。
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