第9章 誕生日プレゼント
夕が16歳を迎えたその日は祝日だった。
通常の休日と同じく午前中は部活があり、お祝いだと三年生の先輩に駅前のファーストフード店でお昼をごちそうになって帰るところだ。
「西谷食いすぎな」
お礼を言って三年生と別れ、一・二年で連れ立って帰る道すがら、二年生の澤村が呆れたように言う。
「すんません!腹減ってたんでつい!」
「まーまー、せっかくの誕生日なんだし、あのくらいいいよなぁ」
後ろからやってきた、同じく二年の菅原がにこにこと夕の肩に腕を回す。
「つーかノヤっさん、早く帰んねぇとソレ、全部溶けね?」
微妙な呆れ顔で龍が指差す夕の手元にはコンビニのビニール袋が下げられている。
ぱんぱんに膨らんだ袋の中身は全部ガリガリ君だ。10月だというのに、誕生日プレゼント!と面白がって買ってきた者がかぶりまくり、ざっと見て20本はあるのではないだろうか。
「うお!やべ、マジだ!じゃ俺、走って帰るっス!お疲れっしたァ~~~!!」
がばっと頭を下げると、嵐のように去っていく夕。
「元気だなぁ西谷は」
のんびりと東峰が言い、とっくに見えなくなっている背中に手を振った。
「あれ?みなみ」
帰宅した夕の目に、西谷家の前に立っているみなみの姿が飛び込んでくる。
「何してんだよ、冷えるぞ」
「あ、夕。来たら、なんか留守だったから」
「ウチの親、今日二人とも出勤なんだよ。つーか、隣なんだから家から連絡くれれば行くのに」
ガチャガチャと音を立てて鍵を開け、みなみを招き入れる。
お邪魔します、とみなみがこの家に入って来るのは随分久しぶりのような気がする。よく考えたらみなみに会うのは、先日ショッピングモールでひと悶着あって以来はじめてだ。
「なんか飲む?」
ガリガリ君を冷凍庫に押し込んだついでに冷蔵庫を開け、みなみに聞く。
「あー、私やるよ。夕部活帰りでしょ?座ってて」
寒いから、あったかいのでいい?と、慣れた様子で西谷家のキッチンに立ち、お湯を沸かしながら食器棚にある紅茶葉の缶を取り出しているみなみをぼんやりと眺め、こいつほんと、さっさと嫁に来ればいいのに、と夕は思う。
紅茶葉の場所まで知ってる女がいる家に、他に誰が嫁に来るんだ、馬鹿。