第6章 烏野高校、入学。
「ノヤっさん!腹減らね?帰り肉まんくってこーぜ!」
着替えを終えて部室を出ようとしていた夕に、チームメイトの田中龍之介がガシッと腕を回してくる。
「いって!龍てめ、デケェんだから手加減しろって!」
無事烏野高校に入学し、夕はバレーボール部に入部した。
千鳥山のベストリベロが何故たいした強豪でもないウチに、と先輩達はざわついていたが、本人は一向に意に介する様子もなく、いつもの天真爛漫ぶりをいかんなく発揮して、既に部内で愛されるムードメーカーとなっていた。一学年先輩の美人マネージャー、清水潔子さんという癒しも見つけた。
当たり前と言えば当たり前だが、先輩はもちろん一年生の仲間も、中学の頃に輪をかけて、長身の者が多い。
中学三年間で爆発的に伸びる予定だった身長は、結局小学校卒業時からほとんど変わらず、未だ絶賛150センチ台を記録し続けている夕がその中にちょこんと混じると、密林に小動物が迷い込んでいるように見えたが、それはそれとして、夕の高校生活の滑り出しは、だいたいにおいて順調と言ってよかった。
ただ、滅多に物思いをしない夕の心を、なんとなく曇らせていることがひとつだけあった。
あの日以来、みなみが確実に彼を避けていることだ。
昨年の秋から、受験勉強でほとんど毎日顔を突き合わせていたから余計にそう思うのかもしれないが、それにしてもみなみが西谷家に来る回数が劇的に減ったのも、夕が朝霧家を訪れた時に多忙を理由にそっけなく帰らされることが増えたのも、たぶん気のせいではない。
夕には、みなみが何にそんなにこだわっているのかが分からなかった。
みなみは、夕が生まれた時からそばにいた。空気や水と同じように、当たり前にそこにいて、いなければ夕はきっと窒息して死んでしまうのだ。
それくらい、みなみが傍にいることは彼にとって当たり前のことだった。今までも、今も、これからも先もずっとだ。
みなみに対し、恋とか愛とか、そういった感情ももちろん人並みに持ち合わせてはいたが、それ以前にもっと深いところで、夕はみなみを自分の人生に不可欠なものとして決定づけてしまっていた。
――みなみはそうではないのだろうか。彼女は、夕がいなくても、それなりに生きていくのだろうか。