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夕焼けの色、歓びの種。【西谷夕】

第5章 受験


 「わっかんねえ!」
 「いや匙投げるの早すぎだから、夕。」
 中三の秋も終わりを迎え、部活も引退した夕は、周りから随分と遅ればせながら受験勉強をスタートさせていた。
 夕の母に頼み込まれ、みなみは時間の都合がつく限り夕の勉強を見に西谷家を訪れている。
「ほら、もっかい説明するから。」

 みなみも、特別優秀というわけではなかったが、夕の志望校のレベルであればなんとか対応できそうではあった。
ただ、中学校で本当にバレーしかやってこなかったらしい夕は、中一の問題から既に分かっておらず、とにかく時間がない。
 県外の高校から来ていたスポーツ推薦を断った夕の志望校は、烏野高校という、二人の家からだとおそらく一番近い高校だ。
 志望理由は呆れたことに、「男子の制服が学ランだから、女子の制服が好みだから、家から近いから」の三点セットだそうだ。
 女子の制服が云々のくだりを聞いたとき、みなみは思いきり意外そうな顔をしたものだった。
 結局中学の三年間も、いつまでもみなみみなみと自分のあとばかり追いかけていた夕が、真っ当に同世代の女の子に興味を持っていることが、意外でもあり、またホッとし、少しおかしくもあった。
 そして同時になんとなく、じゃあ私の行ってた高校はセーラー服だったからあまり好みじゃなかったのか、等と思ったりもした。

 「みなみに関してはだな」
 夕の勉強はすぐ横道に逸れる。
 「もう覚えてねーぐらいちっちゃい頃からイロイロ見てきたからな。パジャマも下着姿もわけわかんねー変な部屋着とかも見てるし、もう今更何着てても着てなくてもなんも変わんねぇし、特に興奮もしねーな」
 「あんたマジで失礼すぎるんだけど」
 「何だよ、興奮してほしいのかよ」
 「バカじゃないの」
 いいからさっさと次の問題解いて、とトゲのある口調で言う。
 春まではもう、あと数カ月しかない。
 問題集に向き合ったものの早速躓いて、うんうん唸っている夕のぺたんこの髪をくしゃ、と撫でてやる。
 「烏野高校で、またバレー、するんでしょ?じゃあ頑張らなきゃ」
 「ん……」
 ちろ、と夕の大きな目が上目遣いでみなみを見る。
 「ここ、教えてくれ」
 ようやく集中して勉強する気になったらしい夕の手元を覗き込み、みなみも指導に本腰を入れ始めたのだった。
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