第2章 はじめまして
戦うことは大好きだ。
それは刀として生まれた私の本能。
主を守ることが生きがいだ。
それは刀として使われる私の誇り。
「佳乃よ、どうか最後までともに」
私の最期の最後まであなたの手の中に。
だって私はあなたのものだから。
男がある女に恋をした。二人はお互いに惹かれ合い共に生きていこうと誓い合う、だけれどもそんな二人を運命の輪は許してはくれなかった。
賊が村を襲ったと聞いて男が出稼ぎから急いで帰ってくるとそこには燃え盛る家、切り伏せられた愛しい人、男の幸せは理不尽にも全て奪われた後であった。取られてしまわぬよう急いで掻き集めてもその手の中には何一つとして残るものはない。おいおいと涙に暮れる男にとある刀鍛冶が声をかけた。
「私はしがない刀鍛冶、どうかあなたが何故泣いているのかを教えてください」
「愛しい女が切られたのだ、私にはあれしかなかったのに。ああ、私の幸せを奪っていった奴等が憎くて憎くてたまらない!その身体を切り刻んでやりたい!」
「それはお可哀想に、私でよければ貴方の力になってさしあげましょう。貴方が本当に人を斬る勇気があるのならばそれ相応の刀を差し上げます」
その刀鍛冶の言葉に男はお願いしますと何度も頭を下げた。そんな男の熱意に刀鍛冶も全力でこたえようと、男の為だけのために無償でその腕をふるう。
そしてひとつの太刀が生み出されたのだ。
「おお、なんと美しく、立派な太刀であろうか」
あまりの出来に男は声をあげて喜んだ。清く、美しく、凛としたそれはまるで男が愛したあの女のようであったのだ。
「この刀は佳乃だ。私の愛した佳乃である」
さあ、共に幸せを奪っていった奴等に復讐してやろう。お前と俺二人ならばきっと誰にも負けることはない。男は生涯、病に倒れ身体が石のように重くなっても休むことはなかった。彼は彼の息が止まるまで賊という賊を斬って、斬って、斬って、斬って、斬って。
最期まで賊を切り伏せて死んでいった男の姿に、人々は畏怖と尊敬を込めてその愛しい人の名を持った刀と埋めてやろうとした。
「これは、不思議だ」
人々が男の傍に来たときには既に男の手の中からは刀は消えていて代わりにそこには男が愛した女の身体が横たわっていた。なくした刀がどこに消えてしまったのかは誰も知らない。