第14章 変わったような、変わらぬような
「ああ、今更驚きませんよ。己に唾棄するような来し方をしているあなたが、何かを大切に出来るとは到底思えませんからね」
手首を捻り上げられて開いた掌から鈍色の指輪を取り上げ、鬼鮫はいやに静かな目で牡蠣殻を見た。
「そうでしょう?」
牡蠣殻は投げるように放された手を見下ろして、草臥れた顔をした。
「何なんです、何が言いたいんです?」
「心当たりすらない?重症ですね」
「どこらへんに当たりをつけりゃいんですかね。言ったら心当たりだらけですから」
「ほう?なら一つ一つあげつらってみなさい。私の知らない悪行がどれだけ出てくる事か、楽しませて下さいよ」
「・・・干柿さん。私なりに重々空気を読んではいるつもりですが、敢えて言わせて貰いますと」
牡蠣殻は情けない顔をした。
「疲れて怠くて眠い。腹も減っています。何処かで休ませて下さい。流石に保たない気がして来ました。お願いします」
「おや、意外ですね」
不意に立ち止まった鬼鮫が、疲れからか間抜けさからか、立ち止まり損ねてぶつかってきた牡蠣殻を受け止める。
「珍しく素直な。ーと、言っても、そんな事が言える程私はあなたを知っちゃいませんがね」
言った瞬間杏可也の顔が頭に浮かび、鬼鮫はぎりりと歯を食いしばって笑った。
"まんまと術中にはまっていますねえ・・・・腹立たしい・・・・"
「・・・はあ・・そう言えば逆もまた然りですね。私も貴方をよく知らない・・・」
牡蠣殻は苦笑した。
「知ろうが知るまいが、好きなんだから仕様がない。込み入った話はまた後程」
「・・・・やっつけで発言してませんか?」
「ですから、込み入った話は後程」
「フ。今のその様で休んだら隠居のところへ行くのは恐らく明日になるでしょうね。いいんですか」
「やむを得ません。行ったらまた気を張る事になるでしょうし、息を抜かせて下さい」
「・・・面白い。あなた私に甘えている訳だ」
「何が面白いんだかわかりませんが、兎に角・・・・・・ああ、そう言えば干柿さんが私と話さなきゃいけない事ってのは何です?」
フと顔を上げて尋ねる牡蠣殻の目の隈を見、鬼鮫は眉をひそめた。
「あなたいよいよ死ぬんじゃないですか?何て顔をしてるんです。飛段みたようですよ、儀式中の」
「はあ。飛段さんですか」
「どうでもよさそうですね」