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連れ立って歩く 其のニ 砂編 ー干柿鬼鮫ー

第9章 急転


「牡蠣殻。杏可也を頼む」

深水が立ち上がって静かに言った。

場にいた砂陣の目が深水に集まる。

「流石にここで退く程バカじゃありません」

いつもの鞄を袷の腰に巻いて牡蠣殻は伸びをし、体を二三度左右に捻った。あちこち痛むのか、僅かに顔を歪めている。

「煙草、あります?」

誰に聞くともなく言う牡蠣殻に、深水がしかめ面で懐の煙草を投げてやる。半眼になり、何かに集中しているようだ。

「遠いな。だが間もなく来る」

少しずつ違和感が高まって来る。

マッチを擦って煙草に火をつけた牡蠣殻に、チヨバアや我愛羅達は目を瞬かせた。

「連れて失せますか?」

「出来るのか」

「わかりません。薬は?」

深水に煙草を投げ返して牡蠣殻が問う。

「入れてある。弾けないものか?」

掴んだ煙草を一本口にくわえ、深水は続いて投げ返されたマッチを思いの外器用な仕種で受け止めた。

目をすがめて煙の流れを追いながら、牡蠣殻が顔をしかめる。

「私も病み上がりです。どこへどうなるか正直自信がありません」

「間違いなく海士仁か」

「これは海士仁の風でしょう。久方ぶりですが間違いない」

二本の煙草の煙が、もつれ合って同じ方向へ流れて行く。

深水と牡蠣殻は誰かが来ると話しているのだ。

我愛羅とカンクロウは顔を見合わせた。

深水と牡蠣殻が暁のメンバーを伴って現れたとき、杏可也は誰が来るかわかっているようだった。

そして空気。それを風と呼ぶならば、あのときの風は地面から空へ吸い上げられるような、夏の夕立を伴う小さな突風に似たものだった。
あれは深水か牡蠣殻の起こした風なのか。

今部屋を巡る風は、心持ち重い。霙を乗せて吹き付ける初冬の風のように、重く荒い。

我愛羅、テマリ、カンクロウは立ち上がり、チヨバアとエビゾウを囲んで構えた。

「先生は杏可也さんを。ここは私が・・・」

煙の先を見定めて牡蠣殻が、律儀にも鞄から取り出した革袋で煙草を消した。
深水も懐の煙草入れから細い灰筒を出して火を消す。

「お前一人では心許ない」

「旦那様?」

声がして杏可也がドアの隙間から顔を覗かせた。

「杏可也!戻れ!」

深水と牡蠣殻がドアと煙草の煙が流れわだかまった場所の間に入った。

不意に煙草の煙の渦を払って、細長い人影が現れる。



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