第7章 苦い依頼
「・・・・砂へ行け?」
綱手に呼び出された藻裾は、同じく呼び立てられて迷惑顔のシカマルと顔を見合わせた。
「そりゃまた・・・・随分勝手な言い様じゃねェですか、五代目」
綱手は藻裾の物言いに苦笑して顎の下で組んでいた手をほどいた。
「まあそう怒るな・・・と言ったところでお前には無理な話か。仕方ない。こう振り回されてはアタシだって怒る」
「・・・・まあコイツァ思ったより伝え上手でしたから、俺も大体のところは把握出来たとは思いますよ」
シカマルが頭を掻いて眉をひそめる。
「しかし何だってまた急に。何かあったんスか?あったんでしょうね。で、コイツに何をさせる気ですか?・・・・コイツは木の葉の者じゃないんですよ、五代目。良いように使っていい相手じゃねえ筈だ」
「磯には磯の事情があった」
綱手はシカマルと藻裾を見比べて慎重に言葉を運ぶ様子を見せた。
「波平も己の里の事とは言え、口を噤まざろう得ない時もあった筈」
殊にシカマルを凝視して綱手は湯呑みに手をかけ、冷めて苦いお茶を薬でも飲み下すように煽った。
「木の葉には木の葉の事情がある。差し出た口は慎むがよい」
「納得いかねえ」
「アタシの仕事はお前を納得させる事じゃない」
なおも食い下がろうとするシカマルにピシャリと言い渡し、綱手は藻裾に視線を移した。
「砂には今牡蠣殻がいるぞ。会いたくはないか?」
藻裾は眉を上げた。
「砂に牡蠣殻さんが?そりゃまた一体・・・先生に会いにでも?」
「ああ、今頃は一緒にいるだろう」
誘うような綱手の口振りにシカマルは眉間に深い皺を寄せる。
藻裾はと見れば、明らかに心が動いた様子で考え込んでいる。シカマルは舌打ちしたくなった。
「元からお前は砂へ行きたがっていただろう?・・・次いでに頼みを聞いて欲しいだけだ」
綱手は苦い笑いを口の端に貼り付けて藻裾から目を反らした。
考え込んでいた藻裾は入れ違いに目を上げて、綱手のいささか不審な様子を見逃した。
「頼み事ってな何です?アタシはどのみち砂へ行く。次いでに出来る事ならやらないでもないですよ?ただし、安かない」
バカ。係りやがった。
シカマルは瞠目した。
「流石潜師の女だな。良かろう。相応を上回る対価を払う」
藻裾は腕を組んで綱手を用心深く見やった。