第1章 砂の三兄弟
砂漠の珠と呼ばれた女がいる。
色白く嫋やかで、柔らかな曲線と優しい声音、あたかも観音像の如き穏やかな顔。
浮輪杏可也である。
現風影を務める我愛羅にとって杏可也は美しく心落ち着く好ましい叔母であった。気の優しかった阿修理叔父と似合いの柔らかな印象が幼少時から我愛羅を魅了して止まない。
先代である父と阿修理叔父の折り合いがあまり良くなかったせいで度々会うことは叶わなかったが、それだけにたまさかの僥倖がより鮮明に記憶に残って色褪せない。
が、その叔母は、何故か物騒な犯罪者の集まりである暁と関わりを持っている。
暁のメンバーの一人に連れられて杏可也は空から来た。
芸術家だとか言ったあの男、まだ年若いのに暁に籍を置くという事は、あれで相応の使い手なのだろう。
親しげだったがどういう経緯があったのか。
何が何だかサッパリわからない。
「まだグズグズ悩んでるのか。いい加減にしろ。仕事に支障が出る」
三兄弟中ある意味最も漢らしいテマリが、書類を卓に叩きつけて腰に手を当てた。
「それこそ叔母上に迷惑がかかるぞ?残念ながら叔母上はチヨ婆様と仲が良くない。お前が叔母上に気をとられて公務を怠れば、必ず二人は揉める。居づらくなった叔母上が早々に砂を去ったらお前のせいだからな」
「何がなくても喧嘩になるって、あの二人は。我愛羅はよ、何か勘違いしてるみてえだけど、あの叔母さんアレで結構キツイじゃん?ほっといたってチヨ婆様と揉めるって。我愛羅のせいじゃねえじゃん?」
カンクロウが割って入る。
「あんま我愛羅にガツガツ言うなよ。頑張ってんじゃん?」
「ガツガツ?何だ、私が怒ってばかりいるとでも言うのか?そんなに無理ばかり我愛羅に押し付けていると!?」
「そこまで言ってねえじゃん・・・落ち着けって、テマリ」
「・・・止めろ、カンクロウ」
我愛羅は立ち上がって二人に背を向けた。
「テマリを責めるな。・・・テマリも色々と気苦労を背負い込んでいる・・・」
「・・・我愛羅」
テマリが心持ち目を伏せた。
「・・・悪かった。私も少し言い過ぎた・・・」
「気にするな。木の葉のバンビ丸からの手紙に、女の名があって苛立っているのだろう?気に病む事はな・・・ぅぐ・・・」
テマリのラリアットが我愛羅の後頚部に決まった。