第24章 追うか探すか
「その口ぶりだと砂に牡蠣殻はいないようだ。一体何処へ行ったのかな、忌血の彼女」
「・・・忌血。成る程。確かにあれは忌血でしょうね」
だがそれが何だと言うのか。
思えば鬼鮫は牡蠣殻の血に対し、対処を考えはしても煩わしさや忌まわしさを感じた事は一度もなかった。牡蠣殻をそうした意味で特別視していない。
「だから消しに来たんですか?あの人がいては不都合になった訳だ」
「不都合でしょ?ハナから。牡蠣殻さんの血は人を殺せちゃうんだから」
「それを欲しがる人が多いのには呆れますよ。人を殺すときは己の手を使うものです。それを厭うなら生殺与奪に関わるべきではない」
鬼鮫の台詞にカカシは苦笑した。
「あなたが言うと随分重みがあるね。流石S級犯罪者だ」
「私は確かに仲間殺しの大名殺しだが、その血が多少使えそうだという理由だけで、平凡な女の生き死にを左右しようとは思いませんね。任務なら話は別ですが」
「驚いた。案外良識的だな。真面目な仕事人間なんだね、あなたは」
「そんな事で感心されても始まりませんね」
「でも大きく読み違えてるよ、干柿さん」
カカシは腕を組んでちょっと顔をしかめた。
「あなたと牡蠣殻がどう関わってるか、俺は詳しく知らない。けどあなたが見てる牡蠣殻と他が見る牡蠣殻にはどうも齟齬があるようだ」
「ハ」
鬼鮫は失笑した。
牡蠣殻の枕辺で交わした浮輪波平とのやり取りが浮かんだ。
「だから?」
「牡蠣殻は小規模とはいえ一つの里の長について補佐を勤めていた女だ。本草の里において信認篤い師について学び、元より山野の薬学に長けた一族の出でもある。更には磯でも指折りの逃げ巧者で、毒にも薬にもなる血を飼っている」
カカシは息をついて鬼鮫を見やった。
「彼女は平凡とは言えない。その血のように毒にも薬にもなり得る存在だ。危険だね」
「馬鹿馬鹿しい」
急に話す事に冷めた。
こんな事をしている場合ではない。
また胸の内がシンとなった。
何故捕まえたと思えば逃げるんですか。
牡蠣殻。あの匂い。話し方。笑い方。手。目。体。声。
鬼鮫は目を張り、次いで瞠目した。
追う。
またしても逃げ出したあの女を許さない。
「あの人の事は諦めなさい。アレは致命傷を負って大蛇丸に呑まれましたよ」