第24章 追うか探すか
杏可也には韜晦後荒浜が身を寄せていた本草の大国草絡みの癒着が明らかになった。
長老連と語らって磯の薬を草に横流しし、不当な利益を得ていたのだが、磯の改革を望み、その資金を欲していた長老連はともかく、杏可也が莫大な金子を何に用いるつもりだったかは本人が姿を眩ました今、判然としない。ただ、推測を重ねる事しか出来ない訳だ。
草と磯は本草でその名を並び称する二里だが、性は水と油。磯のものは草に渡ってはならないし、草のものは磯に渡ってはならない。荒浜は己が手にかけた師同様、幾つもの禁忌を犯した。杏可也もまた然り。
「姉は二度と磯には姿を現しますまいよ。・・・・・義兄と放逐されたときとは事情が違う。彼女にまみえることはもうないでしょう」
深水の細やかな葬儀の席で波平は苦く言った。
「長老連は父の死後から籍を置いていた草に渡りましょう。海士仁と姉も恐らくは草に身を寄せると思われる。・・・・磯の中枢を担った者がいわば商売敵である草に囲われるのは大きな不安要素になりますが、磯は知識のみにて本草を築いてきた訳ではない。優れた民が失われない限り、磯は磯であり続けますよ」
「・・・磯影が草の名を口にするとは時代が変わったの」
「のう。草は磯では忌み名だろうにの」
「散開から磯も変わる事を余儀なくされている。他里との関わりも含めて磯はもっと開けて行かなければなりません」
波平はチヨバアとエビゾウ、そして砂の三兄弟を見やって言う。
「選択の自由を里人に強いた私には、より磯の礎を確固たるものにして彼らの生活を支えなければならない義務がある。磯は強い里ではありません。正直散開によってより脆弱になった今の磯は非常に危うい状況にありますが」
ここで磯影は眼鏡をかけ直してフと笑った。
「何が良い事か悪い事か結果が出るまでは誰にもわからない。私が好きな女が好んでする言い回しです」
傍らにいた藻裾も口角を上げる。二人は目を見交わして頷きあった。
「事態をいい目に転がす為に努めましょう。私は木の葉同様、砂とも同盟を結びたい。是非話し合いの場を持ちたいのですが、いかがでしょう」
「好いた女のために他里に現れるような影をどう思う、我愛羅」
チヨバアの問いに我愛羅はきょとんとした。
「ぅわ、萌え・・・」
呟いた藻裾にテマリが妙な顔をし、カンクロウは呆れ顔になる。