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連れ立って歩く 其のニ 砂編 ー干柿鬼鮫ー

第21章 磯影


「食えんヤツ」

「本当ですよ。私や姉が幼い頃から私達に口煩く目配りしてきた身内のような者を嫌う事が出来ましょうかね」

波平は立ち上がってチヨバアの方に腰を屈めてその目を覗き込みながら小声で続ける。

「彼らには内緒の話。知られたら私の気が挫ける」

伸びやかな微笑がその口元に浮かんだ。茫洋とした顔が俄に色付いて、波平のぼんやりとした印象をガラリと変える。

「・・・存外に伊達者だな、浮輪」

チヨバアがにやりと笑った。

「やり過ごす時期は過ぎたのです。何者にでもなりましょうよ」

食えない。
上等だ。ならばそうあろう。化け物だろうが伊達者だろうが、賽を投げた以上降りる気はない。

波平はトンビを捌いて立ち上がった。

「事を小さく治めるつもりで逃げていたかな。お時間をとらせました。申し訳ない。窮鼠猫を噛む。一寸の虫にも五分の魂。風影にこの私を計って頂きましょう。初めからそうすべきだった。ーでしょう?」

「さあな。ワシは話せて面白かった。な、エビゾウ」

「我愛羅は手強いぞい?・・・ん?ま、大丈夫か?ん、存外に間が悪くもないっちゃないかの?どう転ぶかの、姉者?」

「あン?知らん知らん。まんまで計って貰え、浮輪」

チヨバアは人の悪い顔で波平を見た。

「我愛羅は今朝飯を食っとるとこじゃ。歩いて行くか?失せて出るか?」

波平はうっすらと笑って眼鏡を指先で押し上げた。レンズの反射で半眼の表情が一時隠れる。

「ここは磯らしく参りましょう。荒浜の後とは験が悪いが、風影は果たしてご隠居のように静かに迎えてくれましょうかね?」

我愛羅もまた磯の影に計られる訳だ。

波平は丁寧に礼をとると、チヨバアとエビゾウに笑顔を向けた。

「叶えば、後程。失礼致します」
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