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連れ立って歩く 其のニ 砂編 ー干柿鬼鮫ー

第21章 磯影


その頃、砂の隠居部屋ではチヨバアとエビゾウが思わぬ客の訪いを受けていた。

スウスウと通りの良い涼やかな風と共にいきなり目の前へ現れたのは、細面に眼鏡をかけ、漠然とした表情を浮かべた半眼の男。

食後のお茶を啜っていた隠居二人は、流石年の功とでも言うべきか、取り立てて取り乱すでもなく男をしげしげと見やった。

「どうにも心臓に悪い連中だの。いよいよスイッチが切れるかと思うたわい。お前らのとこでは、アレはどうなっとんじゃ。ほれ、あの、いわゆる、プライベート・ライアン?」

エビゾウが言うのにチヨバアが頭を振る。

「ライアンは要らんじゃろ。エビゾウ、ライアンは要らん」

「ん?プライベートか?ライアンは要らんか。ライアンいないと困るんじゃが。キーマンなんじゃがの?違う?今そういう話じゃない?まあ、何じゃ、こんな真似ばっかしとったらイカンの。磯の」

小首を傾げたエビゾウに諭され、茫洋とした半眼を僅かに伏せて目礼したのは磯の頭領、浮輪波平。

「幾ら物知らずの磯とはいえ、常ならばここまで不躾な真似は致しません。事が入り組んでおります故、逆手をとってわかり易く動くのもまた良しと、無礼は重々承知の上軽慮を推して負かり越しました」

スッと礼をして上げた半眼に、好奇の色が浮かんでいる。

「お初に御目にかかります。浮輪波平と申します。砂の御隠居に置かれましては既知の事かと存じますが、磯と申す小里の束ねを務めておりますれば、元里人であったものの処遇に関して御相談致したく参りました」

「うむ、メンドくっさい」

「磯って感じじゃん」

「これはこれは興味深い。磯って感じ?どういう感じです?」

波平の目に、また好奇の色が閃く。

チヨバアとエビゾウは顔を見合わせた。

「意外に邪気がない」

「詰まらんちゃ詰まらん」

「が、面白いと言えば面白い」

「言えなくもないがまだわからんの」

「牡蠣殻」

チヨバアの漏らした名に波平は口角を上げた。

「私の補佐が迷惑をかけたようですね。口の減らぬ者ゆえ、要らぬ手間をお掛け致したのではありませんか?」

「口の手間で言うのならば、ありゃ慇懃無礼が過ぎる。そうでないと巧い事話す事も出来んじゃないのか?巧くない」

チヨバアは顎を引いて波平を見上げた。

「巧くない補佐を使っとったお前も、巧くない。違うか」

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