第19章 深水杏可也
「会わねばなるまい。お前や腹の子の為にも」
「・・・・私の心配など・・・」
「お前の心配をしなくて誰の心配をする」
深水は苦笑いして、立ち上がった。
卓の上に置かれた小さな香り袋を持って、また杏可也の傍らに戻る。
「新しく作っておいた。悪阻ではないから気休めに過ぎないかも知れないが、少しは気分も良くなろう」
杏可也の好きな百合と天竺葵の香りがした。常々深水が杏可也の為に調合している薫りだ。
「・・・・申し訳ありません。・・・情けない私・・・」
杏可也は白い顔を翳らせて深水の手を握った。
「深水先生は、いつも変わりなくお優しいのですね」
「懐かしい呼び方だな。今そう呼ばれると不思議な心地がする」
居心地悪そうに秀でた額を撫でる深水に、杏可也はまた目を伏せた。
「そう・・・不思議な気がします。こんな風になるなんて、あの頃は思いもしませんでしたわ」
囁くように言うと、杏可也はじっと深水を見詰めた。
「本当に、思いもしなかった・・・・」