第12章 xxx 11.幽閉
「カオリ」
赤葦さんから預かったジャケットをハンガーにかけていると、突然、名前を呼ばれた。
初めて会った日と変わらぬ響き。
疑問符を付けたように甘ったるく、私を呼ぶ。
彼の声が私の名を囁く。
ただ、それだけなのに。
とてもいやらしいことをしているような、不思議な気分。お腹の深いところから息が漏れる。
「……どうしました?」
平静を装って振り向いた。
「化粧してないね、今日」
彼は愉快そうに目を細める。
赤葦さんに視線を絡めとられたまま、数秒。金縛りにあったかのように動けなかった。言葉が出てこなかった。
気付いてくれた。メイクのこと。
それがすごく嬉しくて、同時にすごく恥ずかしくて、血が頬に昇っていく。
「それ、誰のため?」
俺の為なのか、とは、彼は絶対に聞かない。そうだと分かっているのに、聞こうとしないのだ。
正真正銘のサディスト。
赤葦さんにはそんな言葉がピッタリだと思う。
「……っこ、これは、その」
ごにょごにょと口の奥で喋ってみるが、彼は何も言ってはくれない。ただ黙って私の返答を待つだけ。
捕食対象を見つめるような瞳が、私を捕らえて離さない。