• テキストサイズ

【恋乱】短編集

第1章 鼓動~前田利家~


 犬千代の甲冑は機動性を重視したせいで、体を覆う部分が少ない。
 私はむき出しになった肌に頬を寄せた。


 とくん、とくん、と鼓動が聞こえる。

「琴子…?」
 中々離れない私に、犬千代が不思議そうな声をあげた。
 私はそれを無視して、左胸の傷にそっと口づけた。
「…っ、おい…」
 焦ったような声に視線を上げれば、犬千代の真っ赤な顔が見えた。

「ふふっ…犬千代、まっかっか」
 からかう様に言うと、うるせ、とこづかれる。

(よかった…帰ってきた)
 私は嬉しくて、もう一度犬千代に抱きついた。
「…心配かけたな」
「うん…帰ってきてくれて、嬉しい」
 犬千代は私の髪を梳くように頭を撫でてくれる。
「琴子」
 犬千代の真っ直ぐな瞳が私を捉えて離さない。
 大きな手が私の頬を包み込む。
 優しい口づけが降ってきて、私はそれを受け止めた。

 


「わーぉ。犬千代ったらやる~」
「っ?!」
 突然の慶次さんの声に、私たちは慌てて離れ、距離を取った。
「そのままでいいのに~」
「見せもんじゃねぇんだよっ」
「え~~ 見せ付けてたくせに~」
「黙れ! 琴子、屋敷ん中入るぞ」
「あ、うん!」
 犬千代の後ろ姿を追う。
 耳まで真っ赤なのが見えて、私はまた笑った。





End
/ 40ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp