第1章 鼓動~前田利家~
犬千代の甲冑は機動性を重視したせいで、体を覆う部分が少ない。
私はむき出しになった肌に頬を寄せた。
とくん、とくん、と鼓動が聞こえる。
「琴子…?」
中々離れない私に、犬千代が不思議そうな声をあげた。
私はそれを無視して、左胸の傷にそっと口づけた。
「…っ、おい…」
焦ったような声に視線を上げれば、犬千代の真っ赤な顔が見えた。
「ふふっ…犬千代、まっかっか」
からかう様に言うと、うるせ、とこづかれる。
(よかった…帰ってきた)
私は嬉しくて、もう一度犬千代に抱きついた。
「…心配かけたな」
「うん…帰ってきてくれて、嬉しい」
犬千代は私の髪を梳くように頭を撫でてくれる。
「琴子」
犬千代の真っ直ぐな瞳が私を捉えて離さない。
大きな手が私の頬を包み込む。
優しい口づけが降ってきて、私はそれを受け止めた。
「わーぉ。犬千代ったらやる~」
「っ?!」
突然の慶次さんの声に、私たちは慌てて離れ、距離を取った。
「そのままでいいのに~」
「見せもんじゃねぇんだよっ」
「え~~ 見せ付けてたくせに~」
「黙れ! 琴子、屋敷ん中入るぞ」
「あ、うん!」
犬千代の後ろ姿を追う。
耳まで真っ赤なのが見えて、私はまた笑った。
End