第11章 彼女の人生を大きく変える出逢いとは
「海、入らないの?」
アクアがおれの前に立つ。
鼻の下を伸ばしているクルー達に向けていた殺意を消し、アクアを見上げた。
「おれは能力者だ。自殺行為だろ」
「浮輪使えば?」
「…お前、そんな無様なおれが見たいか」
「ふふ…いや、遠慮しておくわ」
絶対こいつ、一瞬想像して笑ったな。
彼女を睨みつけても可笑しい光景を想像したアクアは、声を殺す代わりに肩を揺らしている。失礼極まりない。
「アクアー!こっち来いよ!ビーチバレーしようぜ」
波打ち際でボールを持ったシャチがアクアを呼ぶ。
アクアは一瞬戸惑ったように目を見開き眉を下げ、おれを見た。“人と遊ぶ ”事に慣れていなくてどうしていいのか分からない、と困っているんだろう。
「気にしなくていい。行ってこい 」
「…うん」
おれがそう言えば、困り顔から一転、例えるなら華が開いたようにパッと明るくなり、シャチの方へ駆けていった。
未だ鼻の下を伸ばしている連中は癇に障るが、アクアが楽しそうにしているならそれでいい。
そうやって少しずつ、いろんな表情を見せてくれればそれで。
なんて歯の浮くような台詞を吐いた自分に自嘲し、彼女の姿を眺めていた。