第10章 虚栄心がまるでジェンガのように
「う、うるさい、ほっといてっ」
「くくっ…」
きっと私の頬が赤く染まっているんだろう。それが面白くて、彼は笑っているに違いない。
現に、声を抑えようとしているのに、肩はずっと揺れたまま。
「もう!あっち行って!」
「あァ…わかった、くくっ」
口を尖らせてそう言えば、空になったトレイを手に持ち、トラファルガーは立ち上がった。
片付けてくれるのだろうか。普段は絶対そんな事するようなタイプじゃないのだろうに。
「と、とらふぁるが!」
部屋から出ようとする彼を呼び止める。私には言わなきゃいけない事があるから。
「…いろいろと…、ありがとう」
トラファルガーには言い切れないほどの感謝の気持ちがある。
彼がいなければ、自分の無鉄砲さにも気付かず、今頃ドフラミンゴに殺されていただろう。
それに…私を仲間だと言ってくれる人達に出逢わせてくれた。一人じゃないと教えてくれた。
彼がいなければ私は…こんな穏やかな気持ちになる事はなかったと思う。
「…」
私が礼を言うことがそんなに珍しいのか。豆鉄砲を食らったような面をして。
だけど、その訳はすぐに分かった。
「ちゃんと笑えるじゃねェか」
「…!」
「そっちの方が良い」
部屋を出て行ったトラファルガーの言う通り、鏡に映った自分の顔に、私が一番驚いた。
こんなにもはっきりと、自分が笑う日が来るなんて。想像さえもしていなかった。
嬉しい時は笑って、悲しい時は泣いて。
必要ないと、いつしか蓋をした感情を、取り戻す事が出来るのだろうか。
【虚栄心がまるでジェンガのように】