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【外科医】 キミ色に染まる  【完結】

第10章 虚栄心がまるでジェンガのように



 私は何も出来なかった。

 罵声を発する事も、刀を抜く事も。
 ずっと恨んでいた男を前にして、その威圧感に立ち竦んでいただけだった。



 私は…弱い。

 十年間一人で生きてきて、強くなったと思っていたのに。強くなんてなかった。
 その証拠に、枯れ果てたはずの涙がどんどん溢れてくる。

 悔しい。悔しくて堪らない。





「アクア」

 呼ばれた声にハッとして、顔を上げる。

 俯いていた所為で、部屋に戻って来たトラファルガーに気付かなかった。

 ――――泣き顔、見られた…っ


「夕飯の残りだ。食べろ」
「…え、あ…どうも…」

 思いの外、トラファルガーは何でもないような素振りで、持ってきたトレイを私に差し出してきて。
 敢えて言わないだけなのか。湿った目を擦ってからそれを受け取った。

「食えそうか」
「…うん」

 そうか、とだけ言って緩やかに口角を上げた彼は、なんとも艶っぽい瞳をしていて。思わず見入ってしまいそうな自分に鞭打ち、箸を進めた。

 こんなにもペースを崩されてしまう事が悔しい。

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