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【外科医】 キミ色に染まる  【完結】

第10章 虚栄心がまるでジェンガのように



「ふぅー…気迫ハンパねェ」
「おれ、禿るかと思った…」

 ドフラミンゴの姿が見えなった甲板では、気疲れした船員達が次々に息を吐く。

 私はまだ震えが止まらなくて。項垂れるようにその場に座り込んだ。



「アクア!」

 トラファルガーの声がする。
 まだ恐怖に囚われたままの私は焦点が定まらなくて、駆け寄ってきた彼の顔が何重にも重なって映った。

「しっかりしろ、おれが分かるか?」
「…トラ、ファルガー…」
「もう大丈夫だ、落ち着け」

 優しく背中を摩ってくれる。

 その掌があまりにも簡単に乱れた私の心を落ち着かせるから。


「…うぇ゛…ッ」

 私の中で蠢いていた物が、汚物となって吐き出された。



 恐怖、憎悪、怒り…
 この十年一人で抱えていたもの全て。

 気持ち悪い。

 浮かんでくるのは、思い出すのも悲しい惨劇。大切な家族と、大好きな人達が血に塗れて死んでいる光景。それを鼻で笑ったあの男。


 ――――やめて。
 ――――もうやめてよ。


 どんなに藻掻いても消せない記憶が、頭から離れる事はなくて。

「ゲホッ、うぅ……ふ…っ」

 噎せ返って、碌に息が出来ない私を、トラファルガーはずっと黙ったままそばに居てくれた。



 彼は気付いているだろうか。
 涙が流れ落ちる音がしたのを。

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