第9章 言葉では伝えきれない想い
「…トラファルガーっ」
名を呼ばれ振り返れば、自分を引き止めるのは意外な人物。
彼女が自分を追いかけてきた事を嬉しいく思う。
自然に上がりそうになる口角を抑え、なんともないフリをした。
「どうした」
「え、あ…何処に行くの?」
「少し調べ事があってな、そう遅くならねェよ」
「そう…」
さっきの思い込みは、どうやらおれの勘違いではないらしい。
明らかに顔を曇らせたアクアの浮かない瞳をおれは見逃さなかった。
「なんだ、寂しいのか?」
「そ、そういうわけじゃ…!」
否定してみても、少しだけ頬を染めたのが何よりも証拠で。
アクア自身もきっと、自分でも説明しようのない行動に戸惑っているのだろう。沸々と加虐心が湧き上がってきて、おれはニヤリと笑って見せた。
「何でもないの!いってらっしゃ、」
「待てよ」
この場から逃げようと、踵を返したアクアの顔の前に腕を伸ばし、壁に手をつける。
必然的に行き場をなくしたアクアは、動けず固まった。