第9章 言葉では伝えきれない想い
「アクアー、一緒に釣りしないー?」
「おい、まだ病み上がりだから無理だろーが」
寒空の下、シャチと釣りをしていたベポが、甲板に出てきたアクアに誘いの言葉を告げた。
いくら相手がベポでも、あまり関わらないように微妙な距離を保っていたアクアは、今までだったら断っていたのだろうけど。
「…やる」
あの一件以来、多少は心を開いたのか。
アクアが他のクルー達と会話している事が、然程珍しいものでは無くなっていた。
それを微笑ましく思う反面、少し疎ましく想うのも事実。
全く、誰が連れてきた女だと思ってるんだ。
「あれ、アクアも釣りしてるんですか?」
「…まだ寝てろと言ったんだが」
「くくっ…船長が嫉妬とは見苦しいですよ」
物珍しいおれの態度にペンギンは笑いを隠せないようで。「うるせェ」と睨んでみせるが、構わず肩を揺らしていた。
「ふふ、失礼。まァアクアも体調が落ち着いているし、いいんじゃないですか?少しは島を歩かせてあげても」
「あァ…そうだな」
アクアが寝込んでいる間に、船は予定通りの島に着いていた。だが、彼女の容態が心配なのもあって、おれは勿論、アクアの下船許可は下ろさなかった。
それを彼女に告げれば、不服ながらも「わかった」と答えた。
だが、あの症状が嘘だったかのように今のアクアは安定している。
少しぐらいは息抜きをさせてやるべきか。