第1章 夢の中よりも軽やかに笑った
「本当にすみません…私、帰らせて、」
「あァ?テメェ殺られてェのか?!」
「きゃあっ!!」
乾いた音がした。
続けて聞こえた派手な音に、少女が叩かれ、その場に倒れたのだと分かる。同時にべポが立ち上がったのも。
「おれ、やっぱり見過ごせないよ…!」
「おい!べポ…」
おれの制止も聞かずに、男達のいるテーブルに向かうべポの背中を見送り、ため息をついた。
お前は正義を掲げる海軍か、とつっこみたくもなるが、まあべポなら一人で充分だろう。
おれは再び店主が持ってきた新しい酒に手を伸ばした。
「大の男が女に手をあげるなんて世も末ね」
静まり返った店内に響いたのは、心地良く脳に木霊する声。それは聞き覚えのある、優しい音。
ゆっくりと振り返り、声の主を探してみれば。
これは現実か。
いや、きっとおれはまだ夢を見ているのかもしれない。
でなければ、此処に…あの女が存在するはず、ない。
【この世界で会う君は】
【夢の中よりも軽やかに笑った】