第7章 こんな状況でさえ、流れる涙が無い
「船長、落ち着いて…」
「アクアも…ケンカしないで!」
シャチとベポが仲裁に入る。けどそんなのに構いはしない。
「私が何処で死のうが私の勝手でしょ。口出ししないで!」
「それが無駄死にっつってんだ。お前の気持ちは分かる。だが、」
「あんたと私を一緒にしないで!!」
「…あァ?」
トラファルガーに私の気持ちが分かるはず無い。
だって、私には無いものを彼は沢山持っている。
「あんたには、こうして仲間がいるじゃない!故郷に帰れば親も友達もいるんでしょ?!私は…私には何もないの!分かり合える友達も、大切な家族も、帰る場所も!私には、もう、なにも…残ってない…っ、あんたにこの気持ちが分かるはず無い!!」
今まで押し殺していた感情が、簡単に崩れ落ちる音がする。だけど饒舌な口は止まらなくて。
「たった一人、殺されたのと訳が違うのよ…、私は全てを失ったの…全部!全部大事だったのに…っ、あんたとは背負うものの重さが違う…!分かった風な口をきくな!!」
息を切らしながら一気に捲り立て、そこでハッとする。私はとても最低な事を言った気がして。
命の重さは数じゃない。そんな事は分かっている。
でも、同じにされたくなかった。守るべきものがある彼とは違う境遇の私を。
「アクア!!」
居た堪れなくて、その場から駆け出した。
最低な言葉を言ってしまった事と、自分の覚悟を否定された事に。それから、今まで必死に均衡を保っていたのに、本来の自分の感情が表に出てきてしまった事に動揺して。
【こんな状況でさえ、流れる涙が無い】