第7章 こんな状況でさえ、流れる涙が無い
「心配したよー、アクアが倒れたって聞いたからさ」
「ホントだよな。あんだけ風邪引かなそうなクセして」
「シャチみたいにバカじゃないから、私」
「…お前は寝込んでるくらいが大人しくて良い…」
いつものような会話が出来る事に少しだけ安心する。
私が倒れた理由が風邪となっているという事は、トラファルガーは私の病については喋らなかったのだろう。意外に気を遣える人間だとは知らなかった。
あ、それって大分失礼かしら。
そんな事を思いながら、再び雪景色に目を向けた。
「雪、珍しいのか?」
私の隣に並んだペンギンは、同じように雪に包まれた島を見ながら問う。
「違うわ。懐かしんでいたの…生まれ育った島は、毎年雪が降っていたから」
“偉大なる航路”ではない遠く離れた海では、その殆どが四季を持っている。
私の島もその一つで、春は桜、夏には向日葵。秋は紅葉で染まって、冬には雪が降る。”偉大なる航路”の変わった天候も面白いけど、四季折々に見せる風景の方が私は好きだ。
それに、子供の頃は雪を見れば無邪気にはしゃいでいた。
今と変わらず、体調を崩してはいたけれど、無理して外へ遊びに出て、よく両親を困らせてた。