第1章 夢の中よりも軽やかに笑った
「目指してた島に早く着いたんだ。大した事はないんだけど、街があるからキャプテンも行くかなって」
「そうか。分かった、支度する」
「アイアイ!じゃあ甲板で待ってるね!」
久々の島に気分が舞い上がってるのか。巨体には似合わない軽やかな足取りでべポは部屋を出て行った。
おれは特に急ぐ事もなく洗面所に向かい、冷たい水を顔に押し当て、大きく息を吸った。
鏡に映る自分は、前より隈が濃くなった気がする。あの女に睡眠の妨害を受けているせいか。自分の容姿を気にするような柄ではないが、不健康そのものの顔にため息をついた。
次に出てきたら、せめて夢の中で文句を言ってやろう。
なんて強がってみても、また会えると期待している自分の顔は、自然と口角が上がっていた。
いつの間にかおれは、その傍迷惑な女に今まで持った事のない感情を抱いていたようだ。
まさかこのおれが、なんて思うにも否定出来ない想いを。
会った事もない、夢の中の女に。
「報われない、か…」
自嘲気味に笑い、帽子を深く被って部屋を出た。