第4章 愛しいだなんて、柄に無く思った
アクアが美容室に入ってから数時間。
漸く、店からベポが出てきた。
満面の笑みを浮かべながら。
「キャプテン、シャチ!びっくりするよー」
ニコニコしながら嬉しそうに話すベポの後ろに、藍色の髪が見える。それはポニーテールの時には見せなかった、風にゆらゆらと揺れながら。
「ほら、アクア。恥ずかしがらなくて大丈夫だよ!すっごく可愛いから!」
「…うわっ」
ベポの後ろに隠れていた小さな身体が、腕を引かれて前に一歩出る。その姿に驚愕した。
薄黄色のニットに白の裾が広がっているミニスカート。細い脚は少しヒールのある膝丈の黒いロングブーツで、普段の格好からは感じれなかった彼女の華奢さが際立つ。
いつも一つにまとめていた髪は梳いたのか毛先が軽くなって緩く巻かれていた。
極めつけは化粧も多少していて、唯でさえ大きな瞳が睫毛のカールでより大きく見え、頬は少し染めていた。
「ほ、ホントにアクア…?」
「…他に誰がいるのよ」
シャチがそう言いたくなるのも分かる。
まるで別人。これが普段素っ気無く仏頂面な彼女だと思うと、ギャップが激しすぎてこちらが戸惑うくらいだ。
「似合わないって言いたいんでしょ。だから嫌なのよ、こういう格好は…」
「そんな事ねェよ!すげェ可愛いじゃんか!」
「…お気遣い有難う」
いつものように口を尖らせ放つ憎まれ口は間違いなくアクアのもので、本人だと納得させられる。
だが、こうも見た目が変わっただけで、それすらも歯痒く感じてしまうのは、今目の前にいる彼女を、不覚にも可愛いと思ってしまっているから。