第4章 愛しいだなんて、柄に無く思った
「お前はどうする?」
ふと今の会話を聞いていたであろうアクアに声を掛ける。逃げようとしているのか、少しばかりの探りを入れるため。
「別にどうもしないわ。買いたい物も無いし」
「…追っている海賊の情報を得られるかもな」
「あら、私を簡単に船から下ろしても大丈夫なの?」
逃げ出すかもしれないわよ、と怪しく笑ってみせるアクア。
だがおれは、その顔に裏があるような気が全くしなくて。
「おれはお前を逃がさねェから安心しろ」
そう余裕を見せてみれば、呆気を取られたのか口を開いたまま止まった。
そして少しの沈黙の後。
「その自信が命取りになっても知らないから」
なんて減らず口を言い、再び本を読み始めた。
でもおれは見逃さなかった。少しばかり、彼女の口元が緩んだのを。
きっと、随分長い間危険と背中合わせにしていたのだろう。島観光なんてする余裕が無かったはず。
アクアだって年頃の女だ。どんなに感情を押し殺していても、洒落た服を着たいだろうし、普通の女みたいに過ごしたいと願っているだろう。…その男さえ、いなければ。
あまり街を意味も無く歩き回るのは好まないが。もしかしたらアクアの笑う顔が見れるかもしれない、と思うと少しだけ胸を躍らせた。