第24章 キミ色に染まる
ああ、懐かしい。
心地良く耳に木霊する優しい音。
この柔らかくも真っ直ぐな声が、おれは―――…
振り返ると誰もいない。
そのまま視線を少し上げると、木の太い枝の上に人影が見えた。
黒いマントを身に纏い、フードを深く被ったその顔は伺えない。
しかし僅かな隙間から、口元が笑っている事だけが分かる。
「死の外科医が聞いて呆れるわね。背後取られちゃ終わりよ?」
「…あァ。うちの白クマがあまりにも必死に何かを探しているんでな。油断してたよ」
その白クマと言えば、未だに匂いの根源を探しているようで、おれが誰かと話している事に気付いていない。
動物の嗅覚より劣るおれの方が、探し物を先に見つけてしまったようだ。
「ふふ…可愛い白クマね」
軽やかにその場から飛び降りたそいつは、ゆっくりとおれに近付いてくる。
何故だかわからないが、ベポが言う通り、懐かしい匂いがおれにも分かった気がした。
その匂いは、自身からも発しているはずなのに。
「…これからどうするの?」
「そうだな…おれには野望がある。必ず果たさなければならない、デカイ野望が」
その為の13年間だったんだ。
おれから“2度も”大切なものを奪ったアイツを、なんとしてでも倒さなければならない。
「お前はどうするんだ」
「…そうね…私は、」
―――その野望が叶う瞬間を、隣で見ていなくちゃいけないから。