• テキストサイズ

【外科医】 キミ色に染まる  【完結】

第24章 キミ色に染まる



 ああ、懐かしい。

 心地良く耳に木霊する優しい音。

 この柔らかくも真っ直ぐな声が、おれは―――…





 振り返ると誰もいない。
 そのまま視線を少し上げると、木の太い枝の上に人影が見えた。

 黒いマントを身に纏い、フードを深く被ったその顔は伺えない。
 しかし僅かな隙間から、口元が笑っている事だけが分かる。


「死の外科医が聞いて呆れるわね。背後取られちゃ終わりよ?」
「…あァ。うちの白クマがあまりにも必死に何かを探しているんでな。油断してたよ」

 その白クマと言えば、未だに匂いの根源を探しているようで、おれが誰かと話している事に気付いていない。
 動物の嗅覚より劣るおれの方が、探し物を先に見つけてしまったようだ。

「ふふ…可愛い白クマね」

 軽やかにその場から飛び降りたそいつは、ゆっくりとおれに近付いてくる。

 何故だかわからないが、ベポが言う通り、懐かしい匂いがおれにも分かった気がした。
 その匂いは、自身からも発しているはずなのに。


「…これからどうするの?」
「そうだな…おれには野望がある。必ず果たさなければならない、デカイ野望が」

 その為の13年間だったんだ。

 おれから“2度も”大切なものを奪ったアイツを、なんとしてでも倒さなければならない。

「お前はどうするんだ」
「…そうね…私は、」


 ―――その野望が叶う瞬間を、隣で見ていなくちゃいけないから。


/ 184ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp