第3章 もう涙は枯れ果てた
「よォ、やっとお目覚めか」
静かな部屋内に響いた低い声。
嫌という程に聞き覚えがある声がした方に、ゆっくりと顔を向ければ、やっぱり不敵な笑みでこちらを見ている隈の濃い男がイスに座っていた。
「と、とらふぁるがー…」
「なんだ、おれの名を知ってるのか」
なら話が早い、と言って彼はゆっくり立ち上がり、私が寝ていたベッドに腰かけた。
「おれはトラファルガー・ロー。二億の賞金首で、ハートの海賊団船長だ」
「…えぇ、それくらい知ってるわ…それで?」
「で、此処はおれの船の医療室だ」
「…はぁ」
何だか当たり前の事を言われた気がして少し腹が立つ。いや、この状況は色々と異例なんだけど。
とりあえず分かるのは、間違いなく私は海賊の船に乗っているらしい。
大嫌いな、海賊の船に。
「言いたい事は山程有るけど、とりあえず下ります」
「下りる?誰が許可した」
「別に許可なんて要らないでしょ。勝手に乗せられただけだし」
「…てめェ、乗るって言っただろうが」
「えー?そうでしたっけー?」
とぼけてみれば、微かに眉間にシワを寄せた。そんな顔で睨まれたってやっぱり納得できないわ。
「…まァ、下りたきゃ下りれば良いさ」
だけど、彼の反応は想像と違っていて、余裕を見せる。それすらもイラっときたけど、それはオッケーって事よね。
じゃあ、と言って少しだけ重い腰を上げた。
「下りれるものならな」
意味深な言葉に耳を傾ける。どういう意味…なんて言おうとしたけど、私の口が開いたまま止まる。
ふと目に入った窓の向こうに、何故か優雅に泳ぐ魚達が見えたから。