第21章 どうか、彼女が笑っていられる世界を
「さて、どうするか…」
アクアはまだ目覚める気配がない。
静かな医療室にはアクアに繋いだ点滴の水滴が落ちる音と、開けた窓から緩やかに流れてくる風に揺れるカーテンの擦れる音だけが響く。
「…辛い、よな」
アクアが今戦っているのは戦闘で負った怪我だけではない事はなんとなく分かってる。
確信は無いが、同時進行で“冬身病”が発症したに違いない。
アクアが目を覚まし、この怪我が完治したとしても、また彼女は病に倒れ苦しむだろう。
正直、日を重ねる毎に症状が深刻になっているその姿を見るのは、こちらとしても辛い。
いや、彼女はそれ以上に辛いのだろうが。
「おれは、お前を守りたいんだ…」
彼女を死なせたくない。
早く治るように最善を尽くすつもりだ。
しかし、この船に乗っていれば戦闘は起こるし、今回みたいに重症を負う事があるかもしれない。それに併用して病を発症すれば、おれらの数倍を彼女は苦しむ事になるだろう。
果たして、そんな環境の中治療を続けるのは、彼女の負担にならないだろうか。
「…アクア」
返事をしない彼女の頬をゆっくり撫でる。
早くその瞳におれを映してほしい。
そして…
「お前は笑ってる方がいい、な」
そっと立ち上がり、机の上の電伝虫に手を伸ばした。
【どうか、彼女が笑っていられる世界を】