第21章 どうか、彼女が笑っていられる世界を
ほんの少しだけ開かれた隙間から、虚ろな瞳でおれを見上げる。息は上がっていて、苦しそうに咳き込むと、同時に血を吐いた。
「ごめ…、私、勝手に船を…、」
「それは後できっちり聞いてやる。今は黙れ」
「…ふふ、怒られます、よね?」
「当たり前だバカ」
ふわりと笑う彼女だが、表情は苦しそうだ。
それもそうだろう。
何故こんなにも怪我をしているのかは分からないが、きっとあの病が同時進行している。その辛さは二倍以上になっている筈だ。
「とりあえず船に戻るぞ」
「……待っ、て…」
「あ?」
“ROOM”と呟いたおれの翳している手に、自分のそれを重ね、制した。
その行動に怪訝な目を向ければ、ふう、と落ち着かせるように息を吐いた。
「私…もう、死ぬ、かも…」
「……何バカな事を、」
「だから、聞いて……ロー…」
時間は無い。
だがアクアは何かを言いたがっている。
か細い声が聞き取れる所まで耳を寄せた。
「あの、ね、ロー……もしも…」
アクアはゆっくり言葉を紡ぐ。
「もし、も…この世界から…私が、消えてしまっても…」
それは何処かで聞いた事のある言葉。
「…どうか…忘れない、で…」
紛れもない。
「私、は…いつだって…あなたの中に…生き続ける、から…」
それは。
「……あなたを、守る、から…」
君を見つけた、あの夢と同じ笑顔。