第21章 どうか、彼女が笑っていられる世界を
「………」
息が出来ない。
時間が止まってる気がした。
幻覚でも見ているのではないのかと思う。
砂浜に倒れている彼女と、それを包むように広がる赤色。
おれは一歩も動けず、立ち尽くしたまま。
“…アクア?!”
“アクア!しっかりしろォ!!”
おれの横を走って通り抜けていくクルー達。
気付けばアクアの横たわる姿は、クルー達の影になって見えなくなった。
彼女の姿が見えなくなった事に、「あァ、幻だったのか」と思う。
だが、何処からか聞こえる啜り泣く音、何度も彼女の名前を呼ぶ声が、これは現実だと教えるように、おれを目の前の惨劇に引き戻す。