第2章 お前の心臓、預かっておく
「…アンタ、バカなの?」
「お、おいっ」
「お前!殺されるぞ?!」
少しの静寂の後、放たれた言葉は予想通りの物。それとは反対に、他のクルー達は額に汗を浮かべ、その女に訂正と謝罪を請う。
それもそうか。残忍で罷り通る自船の船長に暴言を吐くとは、背筋も凍るだろう。その言葉に動揺していないのは、おれと普段から冷静沈着なペンギンくらいだ。
「くくっ、相変わらず良い度胸だ」
その光景が可笑しく見え、思わず口角が上がり笑いを零す。
それを見て安堵の表情を浮かべたクルー達と、未だ怪訝そうな顔を見せる女。ペンギンだけがため息をついた。
「意味が分からない。ちゃんとした理由を、」
「そのままの意味だ。問題あるか?」
「大有りよ!」
今にも食って掛かりそうな女を、まあ落ち着け、と手を拘束したままのペンギンが宥める。
ペンギンはおれの本心を理解したようだ。流石はおれの右腕、飲み込みが早くて助かる。
「寝言は寝てから言えっての。大体なんで私がアンタの船に乗らなきゃいけないのよ」
ツン、と顔を背けた女は不貞腐れたように言う。
おれは再びその細い顎に手を添えて、強制的に顔を向かせた。
強く睨む瞳は、やはり夢で見た切ない眼差しとはかけ離れているが、この女で間違いないだろう。