第16章 笑顔になれる言葉を持ち帰ろう
「…ねぇ」
「…」
「ロー」
「……駄目だ」
「…」
膨れっ面の彼女はおれを睨む。が、痛くも痒くもない。
おれはその無言の抗議を無視し、サボから届いた文書に意識を向け直した。
先日、漸くサボから“冬身病”のデータが詰まった資料が届いた。
おれですら聞いたことのない医療用語がズラリと並ぶそれ。頭を悩ましながらも、少しずつどんな処置をしていいのか、理解を深めていく。
冬身病の治療法は至ってシンプル。
だが余りにも地道で、何年もかかるという事に納得せざる負えなかった。
兎に角、必要な医療機器を集めなければならない。
先程着いた島はそれなりに栄えていて、収集には困らなそうだ。おれは他にも調達する物資のリストを挙げている。
…問題はそこだ。
大分回復してきたとは言え、また急に倒れるかもしれない。そんな状態のアクアを無闇に島へ連れていく訳にはいかない。
その節を彼女に伝えるや否や、不機嫌極まりない彼女は、例の癖で口を尖らせっぱなしだ。
「ローのケチ。石頭」
「…何とでも言え」
「バカ、アホ、分からず屋、外科医」
「ちょっと待て。外科医は悪口じゃねェぞ」
シャチが呆れ顔でつっこむ。おれが島に行っている間のアクアの“見張り役”だ。
アクアと一等仲の良いべポは、荷物持ちの為連れていく。尚更気に食わないのだろう。
「シャチ、ちゃんと見張っとけよ」
「アイアイ、キャプテーン!」
威勢良く敬礼をしたシャチと対象的に、未だ口を尖らせたままのアクアに背を向け、船を降りた。