第15章 薄れる意識の中、呼んだ名は
「………あれ…?」
私の箸は目当ての物の少し右をトンッとついた。
「アクア?どうしたの?」
「え、ううん…なんでもない…」
同じようにもう一度。
だけど、今度は宙を掴んだだけだった。
あれ、おかしいな。
疲れてるのかな…
「…っ」
視界がぐらぐらと揺れ始め、焦点が歪む。
船が揺れているのかの思ったけど、そうではなく。
皆が不思議そうに私を見ていたから、揺れているのは私だけで。
そう分かった瞬間に、身体から全ての力が抜け、座っていた椅子から雪崩のように崩れ落ちた。
頭、痛い。絶対、いま後頭部打った。
なんてやたら冷静になってしまうのは、身体が思うように動かないから。目を開けている事さえ億劫な気怠さ。
―――ああ、また“例のやつ”だ。
いつもは必ず前兆があるはずなのに。しかも前に倒れた時から二週間も経っていない。
こんなに早く来るなんて…
“アクア?!大丈夫か?!”
“しっかりしろ!!”
身体を揺さぶられる感覚と、たんだん遠くなっていく皆の声。やっぱりおかしい。皆は目の前にいて、私を囲んでいるのに。
“とりあえず医務室に…誰か船長を…”
ペンギンが誰かに言った指示は最後まで聞き取れずに、私は目を閉じた。
「……ろ、ぉ…」
【薄れる意識の中、呼んだ名は】