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【外科医】 キミ色に染まる  【完結】

第14章 離さない、離さないで



「良かったな」
「えぇ。何とかなりそう」

 そう言って口角を上げた彼女の足取りは軽やかだ。

 それを微笑ましく思うおれも、自然と口許が緩んでいるだろう。


「ロー、ありがとう」
「…何がだ」
「私の為に、頭を下げてくれて」
「あァ…全くだ」

 このおれが誰かの為に頭を下げる日が来るなんて。

 おれが彼女の事をどれだけ想っているのか分かってくれればいいが。


「ふふ、感謝してるわ」

 ふわりと笑う彼女の髪を、風が遊んで散らばせた。
 いつからこんなにもおれの心を掴んで離さないのか。



“…アンタ、バカなの?”

 そう言って眉間にシワを寄せていた頃が懐かしい。

 当時は気が緩んだ時にしか笑顔を見せなかったというのに。今では当たり前のようにおれの隣にいる。


「時間はかかるだろうが…必ず治す」
「…うん」
「だから、おれから離れるなよ」


“世界中回ってその病を治してやるよ”

 初めて彼女の病気を知った時に吐いた台詞。
 それに嘘偽りは一つもなかった。

 それは、今も変わらず。


「わかったか?」

 答えなんて聞くまでもない。

「…うん、わかってる…」

 小さく呟いたアクアの横顔は、確かに赤く染まったいた。
 まるで永遠の誓いのような言葉に、アクアもおれも満足しているようで。


 どちらからともなく、いつの間にか繋がれていた掌を少しだけ強く握れば、アクアもそれに応えるように。


  【離さない、離さないで】

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